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【BOOKガイド】こんな樹木葬で眠りたい 自分も家族も幸せになれるお墓を求めて

記事公開日:2019.10.15/最終更新日:2023.05.09

今日ご紹介する書籍は、東大で森林科学を学び、ドイツで経済社会学と樹木葬を学んだ北海道大学准教授の上田裕文さん。現在の専門は風景計画ですが、樹木葬先進地のドイツの樹木葬の研究を長年にわたり継続されていて、日本の樹木葬に対して提言され続けている方です。以前も記事に書きましたが、日本では人用の樹木葬墓地は、1999(平成11)年に岩手県一関市の祥雲寺が申請し許可された民間霊園「樹木葬公園墓地」が初といわれています。それ以降、家族墓から個人墓へのシフトが劇的に進む日本では、樹木葬が一気に広まり、多くの霊園や墓所で樹木葬を売りにした募集をしています。しかし上田裕文さんは、日本の樹木葬は課題だらけと説きます。祥雲寺の樹木葬墓地は里山を利用する、自然再生や環境保全という狙いもありました。ところが、祥雲寺以降の後発の樹木葬墓地は樹木の下に葬るというスタイルだけ模倣しているだけで、祥雲寺が掲げた理念は踏襲されなかったと嘆いています。墓地の土地不足、個人墓の増加、墓地を相続し守る人不在のため増える永代供養墓、といった現代日本が抱える墓事情における課題を解決する1つの方法として、樹木葬には大きな可能性があります。しかし、ビジネス主体で発展してしまったがゆえに自然環境維持や社会ニーズに必ずしも応えているとは言えません。将来のためにも、一度立ち止まって、目指すべき樹木葬墓地のあり方を検討すべきだと上田裕文さんは説いています。樹木葬を考えている人だけでなく、霊園関係者や林業に携わる人、自然環境保護に力を入れている人たちに是非読んでほしい内容となっています。

 

書籍名称:こんな樹木葬で眠りたい 自分も家族も幸せになれるお墓を求めて

発行者:旬報社

価格:1,650円(税込)

販売店:全国の書店、インターネットストア

書籍の概要

第1章では日本の樹木葬の現状を詳らかにしています。樹木葬という字面から受ける自然と一体化した墓所というイメージとは異なり、日本の樹木葬墓地の8割が都市部の霊園や墓地の中に設けられたスペースに遺骨を埋め、その上に新たな樹木を植える方式であるという実態には驚かされます。結局のところ、単に墓石の代わりに樹を植えただけということなんです。

第2章で、樹木葬先進地のドイツにおける樹林葬墓地の誕生から現在までの発展の経緯、そして理念が語られます。ドイツ民俗は古から、森や樹木を神聖視してきた民俗です。現代日本の多くの樹木葬墓地のように、新たに樹を植えるのではなく、既存の森の中にある樹木を墓標と定めてその下に遺骨を埋めます。森のお墓ともいわれるこの墓所は、まさに天然の墓所であり、墓所が観光地としても活用されている事例も紹介しています。

第3章で、現在の日本の樹木葬が抱えている課題とその解決方法、日本とドイツの現状から、理想とする日本の樹木葬墓地のあり方、そして樹木葬墓地がまちおこしや、森林再生に大きな役割を果たせる可能性について語っています。

目次

第1章 多様化する日本の樹木葬墓地

散骨と樹木葬との違い知勝院/都市郊外にできた樹木葬墓地/女性たちのニーズに応えた「桜葬」/公営墓地での樹木葬のスタート/都心で人気が高まる都市型樹木葬墓地/最近の都市型樹木葬墓地/全国への爆発的な普及と多様化する樹木葬のかたち/樹木葬墓地の四タイプ/社会的な関心事としての墓地問題/家族構造の変化とお墓の変化/自然葬としての樹木葬が人気のわけ/墓地を通して見えてくる社会/墓じまいブームの背景 油断しているとお墓がなくなる/無縁塔と似て非なる共同墓/地方でも広がる都市型樹木葬/高まる公営墓地の人気とその現状/無縁墳墓の増加とその対策として検討される合葬式共同墓/終活コミュニティー・墓友/森林利用型 やはり持続的な森林管理は難しい/環境保護団体による自然再生を目的とした樹木葬墓地

第2章 海外の樹木葬墓地

ドイツ再訪/ドイツで最初の樹木葬墓地の誕生/森そのものをお墓にしたドイツの樹木葬墓地/ドイツの樹木葬墓地での葬儀/埋葬箇所の上を歩くのは嫌?/銀行家が始めた樹木葬運営会社フリードヴァルト/ドイツで統一的な樹木葬墓地のかたち/キリスト教との和解により既存の葬送文化と融合/ドイツの宗教観と自然観/ドイツの葬送文化の変化/樹木葬墓地が既存の墓地に与えた影響/共同墓の普及/なぜドイツでは森を使う樹木葬墓地が実現したか/ドイツ全土に広がる樹木葬墓地/樹木葬運営の競合他社ルーエフォルストの出現/名物森林官の反乱 林業家のものになった樹木葬/地域のシンボル・観光地としての樹木葬墓地/「最も美しい埋葬林」アワードの設立/森林の多面的機能と樹木葬/直営樹木葬墓地の増加/温泉保養地のおしゃれな公営樹木葬墓地/旧東ドイツで遅れた樹木葬/民有林で樹木葬ができるからくり/王子様が管理する樹木葬墓地/百年前からあった森のお墓/世界遺産の森林墓地/森林官が暴露する樹木葬墓地の課題/進化する樹木葬墓地の森林管理ノウハウ/ノウハウ蓄積に伴い進化する運営

第3章 日本の樹木葬墓地の課題とこれから

定義や理想的な姿が見えない日本の樹木葬/樹木葬をめぐるさまざまなトラブル/自然管理の難しさ/自然に対する理解が欠かせない/「理想の森」をつくるにはどうすればよいか/百年後も変わらない森林文化とは 鎮守の杜の可能性/理想の森づくりを実現する担い手/墓地空間としての樹木葬の課題/埋葬義務と遺骨の扱いについての課題/樹木葬墓地の二極化/墓地の「2025年問題」/環境遺産としてのお墓/多様な人が共存できる墓地空間/都市への人口流出と墓地の都市集中という課題/日本は国土の七割を占める森林が活用できていない/ふるさととしてのお墓/歴史と共存するまちのあり方の見直し/死のセーフティーネット/樹木葬墓地でまちおこし/日本の樹木葬のこれから

 

上田裕文氏のプロフィール

1978年北海道留萌市生まれ。北海道大学准教授。東京大学農学部卒、東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻修了。ドイツ・カッセル大学で経済社会科学博士を取得。専門は風景計画。樹木葬の先進地ドイツに学び、日本らしい樹木葬の在り方について提言を続けている。本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)