浄土真宗本願寺派は、仏教系の宗教法人としては最多である約800万人の信者を抱えています。その総本山である西本願寺(正式名称は龍谷山本願寺)唯一の直轄寺院として、首都圏における伝道強化の中心道場としての役割を担っているのが築地本願寺です。築地は2018年10月に築地市場が閉鎖になりましたが、存続している場外市場を中心に海外からの観光客にも未だに人気のあるエリアです。築地本願寺にも、インスタ映えする荘厳な本堂、気軽に寄ることができる開かれた寺院であることなどから、観光客だけでなく多くの人が訪れています。
開山は江戸時代の1617(元和3)年です。西本願寺の別院として浅草に建立されましたが、明暦の大火により焼失してしまいます。幕府から指定された代替地が八丁堀の海上だったため、門徒が中心になり海を埋め立てて現在の地に再建されました。その当時、現在の場外市場のあたりは、58もの寺院が連なる門前町だったということです。
1923(大正12)年の関東大震災に伴う火災で再び焼失してしまいます。そこで当時の宗教施設としては珍しい、鉄筋コンクリート造で大理石彫刻をふんだんに用いた古代インド様式の本堂が設計され、1934(昭和9)年に完成しました。現在は、本堂、門柱、石塀が国の重要文化財に指定されています。
正面にある本堂の階段を上った2階に講堂があります。講堂内部は、数多くの椅子が並べられています。最大400人分の椅子を配置できそうな広いスペースには、お祈りをしたり、考え事をしたりする人の姿も見受けられました。正面には御本尊の阿弥陀如来像が安置されています。御本尊の手前に置かれた焼香台には、ご焼香の作法が表示されています(浄土真宗の焼香は1回、額に押し頂かない)ので、それに倣えば戸惑うことなくご焼香することができます。
本堂内部の階段で1階に降りると、ラウンジとサービスデスクのスペースがあります。ラウンジは休憩する場所、サービスデスクは築地本願寺のさまざまな事業(サービス)の相談や受付の場です。本堂両脇に併設されている、和食レストランやティーラウンジ、宿泊施設、宴会場などもある2つの伝道会館も含めて、多くの女性を含む事務職と思われる人が働いている姿を目にすることができます。彼ら彼女らが僧籍なのか分かりませんが、一見して僧侶ではないスタッフの存在は、ここが寺院であることを一瞬忘れさせ、宗教施設に対する気後れや遠慮が薄れます。気軽に相談や質問がしやすい環境を醸成しているのかもしれません。檀家や信徒がお参りに来るだけの場ではなく、仏教を通して人々の生活に密着し支える場を目指しているのだろう、と感じました。
本堂に向かって左手には、築地本願寺の総合窓口案内として2018年11月で開設1周年を迎えたインフォメーションセンターがあります。ここには、法話などが行われるスペースのほかに、カフェ『Tsumugi』、ブックセンター、オフィシャルショップなどが併設されている、開かれた寺院の代名詞的な施設です。Tsumugiは、すぐ近くに築地場外市場があるにも関わらず連日大盛況で、特に朝8時から10時30分の時間帯の朝食メニューは、配布される整理券(先着110人)がないと食べられないほどの人気だそうです。
『ふと立ち寄ってみたくなる時間と空間、そして不安や疑問を気軽に尋ねていただける交流のしくみを作ります』これは、築地本願寺が取り組む『「寺と」プロジェクュト』紹介にある一文です。同寺は、インフォメーションセンターのような新しい寺院の役割づくりに積極的にチャレンジをしています。このような取り組みには、予算も人も必要になるので、全ての寺院が同じようなことはできないでしょうが、大切なのは考え方です。規模の大小に関係なく、これからの寺院があるべき姿としての、1つの解がここにはあると筆者は感じました。