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生前墓 ( 寿陵 ともいわれる)の一考察

2020年09月20日

近年は生前に自分の墓を用意しておく人が増えていると聞きます。葬儀や墓は、子孫など遺族が担うべきもので自分が関与するものではない、という考え方から、自分が元気なうちに自分で意思決定しておくべきだ、という考え方に徐々に変化してきているのは、核家族化、少子高齢化、地域ネットワークの希薄化、などの社会環境の変化によって、自分の死後のことも自分で考えておかねばならない(場合によってはやってくれる人がいない)という考え方が広がりつつあるからなのでしょう。終活でやることの1つに、葬儀や墓のことを決めておくというメニューがあります。ただ決めておくだけでなく、葬儀であれば生前予約しておく、墓であれば存命中に建造しておく、そうすることで遺された家族の負担は大幅に減ることになります。つまり、生前墓は終活の大きなテーマの1つなのです。

生前墓(寿陵)の歴史

葬儀用語では、生前墓のことを寿陵(じゅりょう)と言っています。だだし、歴史を辿ると必ずしもイコールではないことが分かります。生前墓は古くは紀元前のエジプト王のピラミッドが最も有名でしょう。エジプトの王たちは自分が存命中に、その権力を誇示するために自分が死後に入るピラミッドを建造しました。これは死後もピラミッドの中から現世に対して影響を及ぼすことができるという死生観が源にあるのだと思います。つまり権力者たちは、自分の次の生における本拠地となる建造物を建てたのだと考えられます。だから、おそらくは、死後に弔われる場所という認識は持っていなかったように思います。ちなみに、ピラミッドは寿陵とは言いません。

古代中国の皇帝たちもエジプト王同様に生前に墓所を建造していました。驪山にあり世界文化遺産にも指定されている秦の始皇帝陵が最大規模ですが、始皇帝以降の漢の代、唐の代の皇帝陵にも著名な陵が遺されています。陵(みざざぎ)は中国皇帝の墓のことを指しており、生前に建立した墓所を寿陵と言うようになったのが語源とされています。

日本には古代中国の慣習の多くが伝承され定着しています。寿陵という考え方も同様に、中国から伝承されたものだと考えることができます。天皇の陵という点では、古墳時代(3世紀なかばから7世紀末)に建立された古墳が天皇陵の先駈だと考えられています。ヤマト王朝が成立したころですね。古墳が生前墓であるかどうかの明確な記録は残っていませんが、5世紀前半から半ばに建造されたと推測されている最大の前方後円墳である仁徳天皇陵(大仙陵古墳)から推測することができます。第16代天皇である仁徳天皇は、古事記によると百舌鳥耳原を自らの陵墓地と定めた後20年後に亡くなるのですが、死後10カ月後には百舌鳥耳原に埋葬されたとされています。この10カ月の間、遺体がどうなっていたのかも気になるところではありますが、あれだけ巨大な陵が10カ月で完成したとは考えにくいので、おそらく陵墓地決定後には建造が始められていたのでしょう。つまり、これも生前墓だと考えて良いと思います。中国皇帝に限らず(ツタンカーメンのようなエジプト王もですが)、日本の天皇も在位期間短く若くして亡くなる場合も多いのですが、それを除けば自分の存命中に死後の住まいとなる陵の建造に着手することは、ある意味では務めだったのではないでしょうか。それから考えると、「ほとんど全ての天皇陵は寿陵として建造を開始された」といえるのではないかと思います。

生前墓には節税対策として大きな意味がある

天皇や皇帝でもない一般人の生前墓をなぜ寿陵と呼ぶのか、いつから呼ぶようになったのか、は不明ですが戦前であれば不敬罪に問われかねないので、間違いなく戦後の話だと思います。亡くなった後だけなく生前にも墓石を売り込むことができることに目をつけた、墓石店、墓石事業者が、セールストークとして寿陵は縁起が良い(中国皇帝は、寿陵を建造することが長寿、自分の世の反映、氏族の繁栄につながると考えていた模様です)として使用したんでしょう。まぁこれも当時とすればイノベーションですね。

ということで、現在の日本では、寿陵とは生前墓のことを指しています。生前墓には、冒頭でも記しましたが、遺された遺族の負担が大幅に減るという大きなメリットがあります。それは、時間的、肉体的な労力だけでなく“現預金には相続税がかかるが墓には相続税がかからない”つまり節税対策になるという点です。それ以外にも、自分の好みの墓にすることができる、などをあげる人もいますが、メリットというほどではないでしょう。それよりも、墓のことも自己決定するという意識のあり方が大きな特長なのだと思います。自分の死後のことも、遺族、家族任せにしないで、しっかりと自分で意思決定する、そんな考え方がこれからもっと定着していくのでしょう。

納骨堂だって寿陵

ちなみに、寿陵という言葉からすると、墓所に設けられた墓石による墓のことだけだと思うのですが、納骨堂も生前に用意すれば寿陵なんだそうです。言葉本来の意味からは外れていきますが(まぁそもそも、一般人に寿陵という段階で既に外れています)、言葉本来の意味合いを求めないのが現代なのでしょうね。実際に、墓地にする土地は都市部では不足しています。生前墓を造りたいが土地が見つからないという人は、納骨堂でも充分だと思います。繰り返しになりますが現代の生前墓に求められるポイントは次の点なのですから。

① 自分の死後のことも自分で意思決定する

② 遺された遺族の負担(時間的、肉体的、精神的)を減らす

③ 節税対策