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増えているらしい「尊厳死宣言」と法制化

記事公開日:2018.11.13/最終更新日:2023.05.18

回復の見込みのない病人(末期癌や植物状態、脳死状態など)に対して、生命を維持するための治療を中止して、死を迎えさせることを「尊厳死」といいます。人間としての尊厳を保って死ねる、という趣旨から尊厳死と称されているわけです。人間の尊厳は何か、という疑問はありますが、言葉としては世界的な共通認識(英語では、death with dignity)なのでここではそこに触れません。自ら尊厳死を選択することの宣言が「尊厳死宣言」なのですが、宣言する人が増えているのだそうです。

約半年で1,000人近くが宣言

日経新聞(2018年10月1日朝刊)やテレビ朝日news(10月6日)などによると、公正証書(公証人が作成する文書で、法的行為に対する証拠力を有する)により尊厳死宣言を行った人が2018年は既に1,000人近くになるそうです。背景には高齢化と終活の普及により、生前に自らの意思を明確にしておきたいという人が増えていることがあると思います。

尊厳死宣言をする方法とは

いくつかの方法がありますので簡単にご説明します。

1)公正証書で宣言する

前述した公正証書ですね。全国には約300カ所の公証役場があり、それぞれの法務局が管轄しています。役所には公証人が執務しており、公正証書を作成してくれます。全国の公証役場、公証人で組織された日本公証人連合会には、尊厳死宣言の雛形が用意されており、同連合会のホームページで見ることが可能です。雛形をもとに自分で文書を作成し、公証役場に持ち込めば、費用は1万数千円で収まります。なお、雛形は次の重要なポイントが含まれています。①家族の了承を得ている、②医師らを訴追対象としない。このポイントについては後ほどご説明します。

2)一般財団法人日本尊厳死協会のリビングウィルで宣言する

同協会は1976年に安楽死協会として発足した団体です。会員数は2002年に10万人を突破したそうで、会員は延命治療を望まないという「終末医療における事前指示書(リビングウィル)」を作成することができます。同協会はリビングウィルの普及、啓蒙と、尊厳死の法制化を目指して活動しています。なお会費は、年会費2,000円、終身会員は一括70,000円となっています。

3)司法書士、行政書士を活用して宣言する

公正証書にする文書を自分でつくるのが大変だという人は、司法書士や行政書士に文書作成代行を依頼することができます。ネットで「尊厳死宣言」×「司法書士」または「行政書士」で検索すれば、何件かヒットしてきます。こちらは、公正証書手数料に、司法書士、行政書士への手数料が必要となるため、費用は3万円くらいからと若干高めですね。

4)医療機関、介護施設で宣言する

医療機関や介護施設の中には、生前の意思を聞いてくれるところもあるようです。

法的には認められていない

さて、尊厳死宣言が増えているということですが、「尊厳死」の法的な立ち位置を確認しましょう。現時点では法律で認められたものではありません。つまり、民間団体のリビングウィルはもちろんですが、法的行為の証拠力がある公正証書にも法律上の拘束力はありません。ただ、医療機関側に病人の意思であることを認めてもらい、延命治療を中止してもらえる可能性が高くなる、ということになります。

尊厳死を法的に認めさせるという活動の歴史は長く、日本尊厳死協会は発足間もない1978年ころから法制化の働きかけを国に対して行っています。国会でも1980年代から何度か法制化を進めるための議員連盟が活動を行っていました。直近では2012年に超党派の「尊厳死法制化を考える議員連盟」が発足し、法案まで作成していますが制定にはいたっていません。同議員連盟も2014年を最後にその活動は休止状態みたいです(ホームページが更新されていません)。法制化が進まない理由の1つに「国が個人の死に介入すべきではない」という考え方があり、尊厳死の法制化が俎上にのる度に、学者、作家など文化人が中心になった「尊厳死の法制化を認めない市民の会」がその活動を活性化し、法制化を阻止してきたことがあげられます。筆者もこの市民の会の考えに同調します。日本尊厳死協会は、必ず法制化されると説いていますし、延命治療の中止を認めている判例があるので、すでに法的に認められているという見解ですが、判例は地裁レベルなので合法という司法判断が出されているとは言い難いものがあります。

医療機関にはリスクがある

法制化されていないので、医療機関には訴追されるリスクが存在します。そのため「尊厳死宣言」には前述した2つのポイント「家族の同意」「不訴追」が明記されていることが必要なのです。ただし、例え公正証書であったとしても、そこに記載されていることは事実と異なると家族等が主張する可能性があることは否定できません。もし「同意していないし、訴追しないと約束もしていない」と主張されたら、医療機関には大きなリスクです。尊厳死宣言を提示しても、延命治療を止めない医療機関はあります。それは「どんな理由であれ医療の使命として治療は止めない」という考え方のほかに、訴追を避けるという理由もありそうです。

人の死に関わる問題なので簡単に結論は出ないでしょう。死生観が変わりつつある日本でも、尊厳死を法的に認めるという国民的な合意は得られにくいと思います。ですので、尊厳死宣言が増えてきたといっても、まだ極一部のお話なんだろうな、と筆者は思っています。